2013年7月26日金曜日

●『逆転裁判5』のシナリオはどうやって生まれたのか



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▲写真左から、江城元秀プロデューサー、山﨑剛シナリオディレクター、布施拓郎アートディレクター。
 2013年7月25日についに発売となったカプコンの法廷バトル・アドベンチャーゲーム『逆転裁判5』。『逆転裁判』シリーズとしては、実に6年ぶりとなる待望の最新作だ。すでにプレイを楽しんでいる方も多いと思うが、ここでは『逆転裁判5』のシナリオがどのようにして作られたのかを、山﨑剛シナリオディレクター、江城元秀プロデューサー、布施拓郎アートディレクターに聞いたインタビューをお届けする。ちなみに今回のインタビューでは布施氏の出番が少なめだが、後日公開予定の【キャラクター編】で大活躍していただいているので、そちらをお楽しみに。

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●チーム全員で紡ぎだす物語

――まず、これはシナリオを担当されている方には必ずお聞きしているのですが、山﨑さんの場合、ストーリーをどのように考えて構築していくのか、その手法を教えていただけますか。
山﨑 そうですね、最初はゲーム自体の企画を作るところからスタートします。ゲームは、ストーリー単体で世に出るものではないですからね。まず、そこが決まらないと、シナリオも書けません。

――なるほど、ゲームとしての企画がまずありきなんですね。
山﨑 はい。今回で言うと、『逆転裁判5』をどういうゲームにするのか? ということをまず考えました。そうして、最初に僕が設定やおおまかな企画を作ったのですが、これが少し地味な話で、ボツになってしまいました(笑)。僕としては、この設定ならおもしろい話を書けると思って出したのですが、いま思えば確かにインパクトが弱かったですね。やはり、6年ぶりのシリーズ最新作ですから、おもしろいものであるのは当然で、さらに皆さんの目を引くインパクトがないといけない。そうして考えて出てきたのが、”法廷崩壊”というキーワードと、破壊された法廷のイメージでした。そしてそこに、テーマとして”法の暗黒時代”を加えました。このテーマは『4』のときにあったものですが、少し語り切れてない部分があって、さらにフォーカスしたらおもしろいものになるのではないかと。

――そこまで行って、最初の企画部分にオーケーが出たわけですね。
山﨑 そうです。ですが、その段階ではどうして法廷が崩壊、破壊されたのかまでは考えていないわけです(笑)。なので、法廷はどうやって破壊されたの? 爆弾? 当然爆破事件として裁かれるよね、といったように、企画を起点に物語を考えていきました。

――そうやって、どんどん肉付けしていくんですね。
山﨑 『逆転裁判5』の場合で言うと、それに加えて、別軸で押さえないといけないポイントもありました。まず、ナルホドくんが主人公に返り咲くということ。それから、前作の主人公であるオドロキくんをどうするのか? ということ。また、これはほかのシリーズ作でもそうですが、ナンバリングが変わるということで、新ヒロイン、新たなライバル検事も登場させる。これらの要素を放り込んでみて、どういう構成にするのかを考えるのがつぎのステップになります。

――絶対に外せないパーツを関連付けていくと。
山﨑 同時に、新規の登場キャラクターは、その設定も考えます。例えば今回のライバル検事であるユガミ。まず、これまでのライバル検事を超える手強さが欲しい、そして法の暗黒時代というテーマを体現させるためにはどうすればいいか。そこで、囚人で検事という設定にしよう、名前は夕神にしよう、と。これならインパクトもあるし、暗黒時代の象徴という点にもマッチするな、といった感じです。やり方としては、同時にいろいろなことが解決する方向、ユガミの例で言うとインパクトがあってテーマに合う検事、というものを模索して物事を考えていくことが多いですね。そうして主要なパーツを決めて、そこから全体の流れを作っていきます。

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――さらりとおっしゃられましたが、囚人検事という発想はふつうなかなか出てこないと思うのですが(笑)。これはもう山﨑さんの感性なのでしょうか?
山﨑 自分でも、どうやって思い付いたのかまでは覚えてないです(笑)。ひとつ言えるのは、最初の企画の話でもありましたが、『逆転裁判5』は皆さんが待っていてくださった最新作ですし、すべてにおいてインパクトや目を引く要素がないとダメだ、という意識はありましたね。
江城 6年ぶりの新作ですし、ファンの皆さんの期待はもう頂点を超えて高まっているのもビンビンに感じていましたからね。その状況でフツーのことをしたら、おもしろくないと言われても仕方がない。とりあえずお話が成立していますよとか、あのキャラクターが出てきますよ、なんてやっていたら絶対にダメだ、という話はしましたね。
山﨑 オドロキくんが包帯を巻いた姿で出てくるのも、そのインパクトありきのひとつの例ですね。最初はダブル主人公! みたいなイメージで「ナルホドくんとオドロキくんが出てきますよ」という形で露出しようと考えていたのですが、「インパクトがない。見た目とか変えないと(by 江城)」となり(笑)。(1年で姿が変わるって……)と思いながらも考えて、「包帯とかたなびいていて、ジャケットなんか羽織ってたらミステリアスでダークな感じでカッコイイかも」と。そして布施さんに伝えて描いていただいたら、いい感じのイラストに仕上げていただいて。これはイケる、インパクトもあるぞ、という流れで今回のオドロキが生まれました。で、例によって、何で包帯を巻いているのか、そのジャケットにはどういう由来があるのかなどは、その段階ではまったく考えていないという(笑)。じゃあ法廷の爆破事件に巻き込まれたことに……という感じで、このオドロキくんを成立させるべく進めていきました。

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――イラストが出来てきた段階で、江城さんから包帯やジャケットに関するツッコミはないんですか?(笑)
山﨑 なかったですね(笑)。
江城 インパクトあるしいいね。で、あとは山﨑が考えるだろう、という(笑)。まあそこは信頼しているということもありますし。
山﨑 そのときはもう「未来の俺がんばれ」ですね。魅力的な設定をまず考えて、それをシナリオにきちんと落とし込む。そうやってどんどん未来の自分に借金をしていって、大変なことになるという(笑)。
江城 すべからくそんな調子なので、今回の山﨑の借金はスゴかったですね。借金まみれ(笑)。とはいえ、ファンのために、という気持ちでやっていることなので。オドロキの出し方にしても、すでに「ナルホド君が主人公として復活!」となってファンが盛り上がっているのに、普通にオドロキが出てきたら「えっ……どっちが主人公なの?」ですよね。それぞれのキャラにファンがいると思いますが、どちらのファンも微妙な気持ちになってしまう。そこで、包帯を巻いたちょっとダーク系のオドロキを出せば「どうしたオドロキ!?」となって、ファン全体で盛り上がれる。これは、すごく大事なことだと考えています。

――まずインパクトを、という部分は皆さんが常々語られていることですが、改めて納得です。では、ストーリーの大まかな枠組みたいなものは、どの段階で考えられるのでしょう?
山﨑 最初から考えてはいますが、ぼんやりとしたものですね。『逆転裁判』は大団円で終わるというのは決めごととしてあるので、結末が決まっているといえばいるんですが、内容に関しては作っていくうちに変わっていくこともありますし、あくまで指針です。とくに最後のほう、結末をどうするかというときは、もう僕ひとりの作業ではないんですよね。チーム全員で広げた風呂敷を畳む作業になります(笑)。もちろん途中の段階でも、担当などは関係なく全員がアイデアを出してきてくれるので、ある程度までお話の内容が固まってきたら、スタッフ皆で作り上げていくという形ですね。

――『逆転裁判5』では、それぞれのエピソードが語られて、そこからひとつの結末に向かっていくという構成になっていますが、これは最初から決まっていたのですか?
山﨑 そうですね、そこは決まっていました。各話の役割くらいまでは考えてありましたね。ただ、各話の細かい内容を考える段では、「とにかく起きる事件はインパクトがないといけない」となるので、またここで借金が発生します(笑)。「この話では、妖怪が殺人事件を起こすぞ!」……さてどうしよう、みたいな(笑)。この各話の作り方というか方針は、巧(※巧舟氏。『逆転裁判』~『逆転裁判4』のシナリオ/ディレクターを担当)の時代からの伝統ですね。「最初の取っ掛かりのところで、インパクトのある事件を起こさないとダメだ」と、そこを一番大事にしていました。
江城 最終的に目指す形は同じですが、最初に高いハードルをガーンと設定して、それをなんとか成立させるというのは山﨑流ですね。『逆転検事』、『逆転検事2』とキャリアを積んできて、自分のスタイルが確立できてきた。『逆転検事』2作を経験していなかったら、正直、今回の『5』のシナリオはしんどかったと思います。ですが『逆転検事2』をいっしょにやったときに、もう任せてだいじょうぶだろうと。描きたいことが見えるというか、芯が通ったというか。
山﨑 とはいっても、やっぱりいつもチームの皆さんにかなり助けられて風呂敷を畳んでいるので(笑)、自分としてはまだまだですね。
江城 まあそれがチームというものですよね。それで言うと、布施なんかもアートディレクターですけど、シナリオにもどんどん意見を出してくるんですよ。
布施 僕もゲームを作るということが好きですし、キャラクターを作る立場なので、シナリオをもっとこうすればこのキャラクターが活きてくるかも、というところがあれば提案したりとか。その逆もありますし、常にキャッチボールはしていますね。

――みなさんのお話を聞いていると、素敵な開発現場なんだなと感じます。
江城 はい。今回関わったスタッフの誰かひとりでも欠けていたら、『逆転裁判5』は完成していませんね。これは断言できます。

●トライ&エラーから生まれるクオリティー

――事件のトリックや仕掛けは、どういったところから着想を得るのでしょうか?
山﨑 ミステリーは歴史も長いですし、ノウハウが研究されている分野ですので、よく「新しいトリックはもう存在しない」と言われます。「いまのミステリー作家にできるのは、すでにあるトリックをどうアレンジするか」だと。と言いながら、そんな中でも新しく生まれてくることもあるのですが(笑)、やはり先人の考えたものを知る、研究するというのが非常に重要な分野ですので、そこは勉強しています。その積み重ねが血肉となって、自分で考えるときのベースになっているのかなと。ただ、僕の”まずムチャ振りをして、それを成立させる”というやり方は、一般的なミステリーの作り方とは違うと思います。作り方が逆なんですね。例えばミステリー小説であれば、”ハッと驚く真相”や”壮大なトリック”から考えるのではないかと思います。これは結末から考えるやり方ですよね。僕は、おもしろそうな事件を考えて、それを成立させるためのトリックなどを入れていく。そこは大きな違いですね。

――ゲームと小説の違い、という面もありますよね。
山﨑 そうですね。ゲームはエンターテインメント性を強めに意識することも大事ですし、シリーズ作であれば作り上げてきたテイストもあります。ですので、シナリオでも最初はある程度僕が考えるおもしろいキャラクターなんかを出しますけど、例えばデザイナーさんと相談してそちらからもっとおもしろいものが出てきたら、それに合わせてシナリオのほうを書き変えますからね。最終的にゲームとして面白いものに辿り着くことが大事なので“これはゲームである”ということは忘れないように気を付けています。たまに忘れちゃうことがあるんですよ(笑)。書いてみたら「これ、なんかキャラクターがずっと喋ってるだけなんだけど……」とか(笑)。

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――ちゃんと説明しようとして語りすぎてしまうと(笑)。
山﨑 それではゲームとしてダメなんですよね。ちゃんとプレイヤーがストーリーを紐解いている感覚を持てるように書かないといけません。
江城 今回も5稿くらいまで出したのかな。1稿目出して「はいダメー」、2稿目出して「はいダメー」、の繰り返し(笑)。
山﨑 今回はちょっと多すぎましたね(笑)。

――「ダメー」は江城さんが?
江城 僕じゃないです!(笑) そこは、まずチーム内のレビュー、チューニングチームですね。もちろん丸々ダメってことではないですけど、細かいところまで見ていって書き直しが出てくる。で、そこを通って、今度は実機に入れて演出をつけてみたら「はい、やりなおーし」(笑)。そういう作業を何回もやりながら一番いいバランスを見つけていくんです。本当にトライ&エラーの繰り返しですね。

――やり方としてあまり今時の作り方では……
江城 ではないですね(笑)。マニファクチュアです。
山﨑 時代遅れ感が(笑)。まあ『逆転裁判』シリーズの伝統ですね。
江城 開発全体で言うと、技術が進歩して、いろいろなバックアップツールが優秀になって、トライ&エラーがすごくやりやすくなったので、どんどんクオリティーを上げられるようになったんですね。で、いつもの調子でやっていった結果、臨場感や没入感は前作比の2倍以上になっていると思いますよ。
山﨑 シナリオもそうですね。多くやり直しできたぶん、本当に練られたものになっていると思います。やっただけの価値はあるものに仕上がっている自信はあります。

――例えばの話ですが、大作家先生に「うむ」とシナリオを手掛けてもらって、このシナリオはイジれません、というやり方で『逆転裁判』を作り上げることはできますか?
山﨑 難しいと思いますね(笑)。
江城 そうですね。プロモーションとしてはわかりやすいという利点もあるかもしれないですが、「ファンの皆さんの納得できるものになるか?」と考えると、そのリスクは背負えないですね。新規タイトルならともかく、育ててくださったファンが大勢いるタイトルですし。
山﨑 先ほどもお話しましたが、『逆転裁判』はシナリオ担当がひとりでストーリーを作っているわけではないですからね。フレキシブルに変えて質を高めていけるやり方でないと、納得いくものはできないと思います。

――では、『逆転裁判5』のストーリー全体を通して、プレイヤーに感じてもらいたいテーマはどんなものですか?
山﨑 復活と成長でしょうか。復活というのは、ナルホドの復活、法の暗黒時代からの復活、さらに言えば『逆転裁判』というタイトルの復活にも掛けています。そして、その復活の物語には、そこに挑む熱いキャラクターたちの成長物語があるという。
江城 山﨑イズムというか、描きたいものが基本ストレートなんですよ。愛情、喜怒哀楽とかわかりやすいところをぶつけていく。なので、遊んでいる人もわかりやすく感じられると思います。ゲーム中で起きていることにシンクロしやすいんですよ。そこを感じて楽しんでいただけたら嬉しいですね。

――今回のストーリーについて、この記事を読んでいる読者の方が「オッ?」と食いつくような見どころを”ネタバレにならないように断片的に”教えてください!
江城 また、難しい質問を(笑)。
山﨑 うーん、これは難問ですね(笑)。

――最初の山場はどこでしょうか?
江城、山﨑、布施 最初の山場、う~ん。ネタバレにならないように……。
布施 すでに公開されているところだと、ナルホドとオドロキの「えっ、ちょっとなに、ふたりが?」みたいなところじゃないですかね。
山﨑 オドロキが出ていっちゃうところですね。確かに山場のひとつです。
江城 もちろんそこにはちゃんとした理由があるので、遊んで確かめてほしいですね。
山﨑 理由という話ですと、ココネがなぜ法廷で闘っているのか、というのも必見です。
江城 ああ、あれはいい話だよね~。

――ユガミが登場するあたりはどうですか?
山﨑 山場ですね。
江城 そうして考えてみると、全キャラクターに山場がありますね(笑)。

――なるほど。そうして各キャラクターの背景が語られて……
山﨑 ナルホドくんの「約束を守るために戻ってきた」というセリフから、クライマックスへと向かっていきます。

●開発陣がオススメする必見の章は?

――では最後に、皆さんのオススメの章をひとつづつ挙げていただけますか。
山﨑 僕は最終章です!
江城 それはズルイだろ(笑)。

――これはシナリオディレクターにのみ許される荒技ですね(笑)。
布施 でなきゃ許されないですよ!(笑)。僕は、もちろん全部オススメなんですけど……3章ですかね。いろいろなチャレンジをしているということで。
江城 舞台が学園なんですけど、これはシリーズ初で、確かにいろいろおもしろいキャラクターが出てきますね。
布施 デザイナーとして、かなりチャレンジしていると思います(笑)。
江城 僕は2章ですね。妖怪が事件を起こすというのがおもしろいなと。好きなんですよね、妖怪話。『逆転裁判』らしい濃い内容になっていますしね。ゲームとしてもおおよその要素が出揃う章ということもあります。

――ちなみに最終章は、後日談的な位置づけのものではなく、最高潮に盛り上がる内容のものですか?
江城 もうエライことになりますよ。
山﨑 ガッと回収していく章です。ぜひそこまで楽しんでいただければと。

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